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2018-05-27

「クレヨンの可能性を引き出すアーティスト」表現の道具箱

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クレヨンと言えば、誰しも子供の頃に慣れ親しんだ描画材。
大人になると、手にする機会もすっかりなくなってしまう。
ということもあってだろうか、なんとなく「子供の画材」というイメージがある。
そんな中、クレヨンで様々な作品を創り出しているアーティストがいる事を知った。
吉田夏奈さんだ。
2014年3月11日、吉田さんが滞在制作していた千葉県市原市の小学校旧校舎でお話をうかがってきた。
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■体験を描く
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画家は予め決められた大きさのキャンバスなどに描いていくが、吉田さんの場合は大きさが全く決まっていない。どんどん描き足していくので、吉田さんご自身もはたしてどれくらいの大きさになるか想像がつかないという。
モチーフは自然の風景が多い。と言っても、見た風景をそのまま描く訳ではない。
吉田さんがこだわるのは「体験」。
たとえば、山登りをして、足もとに転がっている石のゴツゴツとした感触だったり、汗をかいて登ったというひとつひとつが全て彼女にとっての「体験」。それらを絵で表現している。代表作の「Beautiful limit ー混沌への冒険」では、山々が横に絶え間なく続いている。どんどんと描きつなげたものだ。まさに描くサイズがどんどんと大きくなっていくという典型的な作品だ。
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「Beautiful limit ー混沌への冒険」 山々が個性豊かなに描かれ、臨場感に溢れている。
しかし、あるとき、こうした風景の終わりとは一体なんだろう?という疑問が浮かんだという。それを考え抜いた結果、出た答えが「島」だった。島であれば、山の稜線にも終わりがある。そして、小豆島に渡り、現在はそこをベースに活動をしている。
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「奇跡の牛」 小豆島で作った島の作品。
■「もぐら」という作品
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今回、吉田さんが制作した作品は「もぐら」。
千葉県市原市にある白鳥小学校の旧校舎で開催されるアートイベント「いちはら アートミックス」のために制作したものだ。
この作品にも、もちろん吉田さんの「体験」はタップリと込められている.

07豊かな自然が残っている市原をあちこち歩いている中で、吉田さんの目にとまったのは崖の地層だった。クッキリとした砂・粘土・岩のコントラストが美しかったという。この地層の中でも、生きている生き物もいて、その視点で作品を作れないだろうかと考え、今回の「もぐら」のプランが固まった。

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小学校の1階から2階へと続く階段を使い、見学者がさながらもぐらのように土の中をさまよっていく。1階の地中部分には吉田さんが体験した美しい地層が立体的に描かれている。地上へと上がってくと、穴や溝が地面に空いて、その上空から光が差し込み、そこから頭を出すと、まさに「もぐら」の気分が味わえる。

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暗い地層の世界から地上へ上がると、そこは一面菜の花畑。

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■クレヨンに行き着いた訳

この菜の花は、「ずこうクレヨン」と「ぺんてる専門家用パス(オイルパス)」だけで描かれている。菜の花の黄色は「ずこうくれよん」の「レモンイエロー」と「きいろ」の2色だけで表現。「ぺんてる専門家用パス」は、「サップグリーン」で茎の部分を、「ボトルグリーン」で茎の影を表現している。

そこには見事なまでの菜の花が描かれていた。
これを見て、クレヨンってこんなに表現力が豊かなんだ・・・というのが、私の率直な感想だった。

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ちなみに、これらは発砲スチロールに描かれている。

紙と違い発砲スチロールは表面が光を反射するので、菜の花がキラキラと輝いているように見えるという。

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実は、吉田さんは、これまでのアーティスト活動の中で、アクリル絵の具を使っていた時期もあった。しかしながら、アクリル絵の具にだんだん限界を感じるようになっていったという。それはたとえば、強い筆圧で筆で描くと、筆の毛が抜けてキャンバスに付いてしまうということなどだった。ならばと、筆圧をかけても大丈夫な「割り箸」を筆代わりに描いたこともあった。割り箸は、筆圧がかけられるものの、絵の具をタップリと含ませることができず、絵の具をしょっちゅう付けなくてはならなかった。

吉田さんとしては、体験したことをいち早く描きたかったのに、それができないもどかしさを感じていた。そんなあるとき、クレヨンを手にしてみると、これがすごくしっくりときた。思いのまま描けるスピード感と心地良さがあったという。
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そこで、吉田さんがとった行動がすごい。世界中で販売されている様々なメーカーのクレヨンを取り寄せたのだ。ひとつひとつ試して、最後にこれだ!と行き着いたのが、ぺんてるの学童用のクレヨンとオイルパスだった。

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ぺんてるクレヨンの良さを吉田さんはキッパリとこう断言する。
「手軽さ」、「発色の良さ」、そして「硬すぎず、柔らかすぎないちょうどいい滑らかさ」。
他社のクレヨンだと、夏場の暑い日に柔らかくなりすぎてしまうこともあったという。
ぺんてるクレヨンだとそれが全くないそうだ。
そして、もうひとつ気に入っている点は、紙以外のどんなものにも描けること。
「もぐら」で使っている発砲スチロールにも相性が良いという。と言うか、描き心地は紙よりもずっと上だと言い切る。そう言って、私に端切れの発砲スチロールとぺんてるクレヨンを手渡してくれた。
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試しに描いてみると、ヌラヌラとした感触で描いていける。この発砲スチロールは通常のものよりも硬めのものだそうだが、描いていると表面がほんの少し
凹んでいく。この感触が何とも言えず気持ちいい。もはや「描いている」というよりも「立体物を作っている」という感覚に近かった。
■独自のクレヨンの使い方
これまでアクリル絵の具などを使ってきた吉田さん。
色々な絵の具が次々に出てきて、それらを試していた時期があった。その当時を振り返り、「画材を使っている」というよりも「画材に使われていた」という感じだったという。そろそろ自分にしっくりとくる画材を決め、それを掘り下げて使い込んでみたいと思っていた。
そうした中でめぐり会ったのがぺんてるクレヨンだった。
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砂粒を描く時は、こうして何本ものぺんてるクレヨンをテープで束ねてたたくように描いていく
ぺんてるクレヨンが自分の体験を表現するのに最適な画材であると確信を得た吉田さん。
その使い方は、想像を絶するものがあった。
■チョコレートのように、溶かして混ぜるという方法
そもそも、ぺんてるの学童用クレヨンは全部で24色ある。ある程度の色は揃っているが、微妙な色合いが欲しいということもあったという。特に、自然の木々の
や地面を体験そのままに描いていくには、中間色のようなものが必要になってくることが多い。
そこで吉田さんがあみ出したのは、クレヨンを溶かして色を混ぜるという方法。
「クレヨンって溶けるんですか?」と驚いている私に、「はい、溶けます」と言って家庭科室に場所を移し実際に見せてくれた。 0506
グツグツと沸騰してしばらくすると、さっきまで固形だったクレヨンがまるでチョコレートのようにドロドロと溶け始める。
慣れた手つきで割り箸を使って料理でもするように吉田さんは手際よくかき混ぜていく。0709
ドロドロになったクレヨンを、今度は和菓子を作る時に使うみたいな木製の型に流し込んでいく。101112
それから3分くらいして型から外せば、色が混ぜ合わされたクレヨンの出来上がり。あまりの早わざにあっけにとられてしまった。13
吉田さんが自ら作ったオリジナルのグリーンクレヨン
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そのオリジナルグリーンクレヨンで描いた絵
このように混ぜ合わせたクレヨンであっても、書き味は全く変わらないという。
クレヨンで色を混ぜるというと、紙の上で何色かを重ね塗りするという方法がある。しかし、どうしても濁った色になってしまい、
吉田さんとしては納得がいかなかった。
吉田さんは、紙の上で色を重ね塗りして色を混ぜずに別の色で描き分けている。
紙の上で混ぜるのではなく「目で色を混ぜる」のだという。
描くことへのこだわり
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吉田さんに作品づくりで最もこだわっていることは?とおたずねしてみた。
一瞬考えて、ひとこと「描くこと」とお答えになった。どういうことかというと、「色を塗る」のではなく、あくまでも「描く」という意味だ。たとえば、菜の花の花びらにしても決して塗っていないという。菜の花には花びらがそれぞれ4枚付いていて、描く時もかならず4枚ずつ描いていく。先ほども触れたが、花びらは「レモンイエロー」と「きいろ」の2色だけで描いている。わずか2色でこれだけの世界を作り上げられているのも、「描いている」からなのだという。
たしかに、描かれた菜の花をじっくりとひとつひとつ見てみると、花にリアリティがある。16
最後にぺんてるクレヨンで今後作ってみたい作品についてお聞きしてみた。
「ぺんてるクレヨンを溶かしたもので彫刻やオブジェを作ってみたいですね。ぺんてるクレヨンはシンプルで余計なことをしていないから無限の可能性があると思います。また将来、宇宙に行けるようになって、そこで作品を作ることがあったら、ぺんてるクレヨンを必ず持って行きます。
だって、無重力でも問題なく描けそうだし、書く物が無くても、宇宙船の機体や月面にもきっと問題なく描けると思うので。17

 

取材後記


クレヨンは、軸全体のどこを使っても描くことができる、実にシンプルな画材です。シンプルであるからこそ、先端を削って尖らせたり、溶かして色を混ぜたりといったこともしやすいのでしょう。クレヨンという画材の大いなる可能性というものを感じることができました。
 
吉田さんがクレヨンを手にして描きだす姿は、クレヨンが吉田さんと一体になっているような、そんな印象を受けました。
吉田さんにとって「ぺんてるクレヨン」は「体験」を表現するために、なくてはならない道具であると痛感しました。
 
そして、私ももう一度クレヨンを手にしようと思いました。
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